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INSIDE ATOMIC

2021.03.11

第58回全日本スキー技術選手権大会レポート

3月5日に開幕した今回の全日本スキー技術選手権大会。
1年のお休み期間を経て、新潟県苗場スキー場を舞台に2年ぶりの開催となりました。
まだまだコロナウィルス完全終息とは言い難い状況ではありますが、選手&スタッフのPCR検査徹底、無観客試合という盤石の体制で開催準備が進められてきました。
まずもって、当大会が無事に開催出来ましたこと、運営陣の皆様並びにスキー場関係者の皆様へ深く感謝申し上げます。

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さて、今回の全日本技術選は、ATOMICにとってBIG NEWSの多い大会となりました。
結果から言えば、武田竜選手の総合2連覇、青木美和選手のベストリザルト2位と、男女で大きな成功を収めたTEAMの結果となっています。
それに加え、ほとんどの選手がベストリザルトを記録しており、選手一人ひとりの努力と、TEAMとしての準備、そしてマテリアルという武器、この全てが噛み合った総合力の結果であると感じています。

 

#1 武田竜選手総合2連覇達成

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過去の技術選とは違うイレギュラーなスケジュールでの開催となった今回の技術選。
2日間の予選結果を持ち越して決勝、スーパーファイナルへと続く、1種目も気を抜けないタフな戦いでした。
レースの世界とは違い、大会の場数を踏んで調整していく事が出来ないのが技術選の難しいところで、ましてや2年ぶりの大会となればどんな選手でも「緊張」の二文字が常にのしかかってくることは言うまでもありません。

初日を首位で発進した武田選手も2日目の不整地種目で少し抑えすぎた滑りで精彩を欠き、決勝は3番手から追う展開。
こういった厳しい場面で底力を発揮するのが武田選手の真骨頂。決勝の2種目両方で圧倒的なトップポイントを獲得する圧巻の滑りを披露し、いよいよスーパーファイナルを迎えます。
気温の下がらない初日、雨に見舞われた2日目、午前と午後で雪面状況が大きく変化した3日目の決勝と、目まぐるしい状況変化への対応力が問われたのも、今回の技術選の見所だったのでは無いでしょうか。

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スーパーファイナル開始に合わせて完璧に仕上げられた苗場の名物コース「男子リーゼンン」は、1人、2人と滑るにつれ日影位置がどんどんと斜面へ押し寄せ、パリッとした表面コンディションと凹凸が見えにくい視界、そして2日目の雨が作りあげた波打った地盤が選手を悩ませた。

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スーパーファイナルへ進出した30名のうち、武田選手は7番手スタート。
日影と日向がフィフティーフィフティーの状況でスタート位置へ立った武田選手は、イメージ通りのライン、圧倒的なスピード、そして、雪面の難しさを感じさせない抑えの効いたスキーの動きを見せ、最終種目も見事1位のポイントでフィニッシュラインへ飛び込んで行った。

武田選手はゴール後にこうコメントを残しています。
「さすがに緊張した。やっぱり技術選は苦しい戦いだね。でも最後は結構ガッチリ攻めれました。もう抑えてとかそう言う感覚はなく、”武田らしさ” ”武田スタイル”を存分に出せたと思います。もちろんドキドキしてはいたけど、緊張して足が動かないとかではなく、”良い緊張感と昂り”を感じてスタートを切る事が出来ました。これから1年、また追われるプレッシャーを楽しんで俺はやりたいと思います!」

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武田選手にとっては、チャンピオンとして追われる立場の1年がもうスタートしています。
来年も他の追随を許さない圧倒的な武田竜に期待しましょう。
優勝、そして2連覇達成、おめでとう!

 

#2 青木美和選手苦節16年(15回目)で初の表彰台

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38歳のベテランが大きな快挙を成し遂げました。
もう何年も上位で入賞を果たしている青木選手だけに、初めての表彰台というのが意外に思えるかもしれません。逆を言えば、何年も定位置の殻を破れず、表彰台に手が届く位置で誰よりももがき苦しんだ選手なのです。

予選初日を3位タイで発進した青木選手。1日目、2日目と小回り種目での点数が伸びず、トップの春原選手に大きな差を空けられての3位で決勝を迎えました。
決勝の2種目では、青木美和らしさを存分に発揮した圧巻のスピードとパワーの滑りを披露し、単独2位に躍り出てスーパーファイナルを迎えます。
この時点でトップの春原選手とのポイント差は4.2点。点差は大きいものの、決勝の総合滑降で見せたあの滑りを思うと、ひょっとしたら…という思いがTEAM全体に広がっていました。

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スーパーファイナルを迎えた青木選手は、いつも通りの落ち着きと屈託の無い笑顔でスタートに向かいます。そこには大きな「自信」が伺えました。スタート順は後ろから2番手、そして最終走者が春原選手という、BIBドローがあったにも関わらず見ている方々をドキドキさせる完璧なシナリオが出来上がっていました。

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スタートを切ると、1ターン目から今までの選手とは明らかに違う”キレ”を見せつけ、あの難しい斜面を驚くようなスピードで滑り切っていきました。得点はその時点で種目別2位に圧倒的な差をつける94.0点。このプレッシャーがかかる今大会一の大一番で見せたあの滑り。
優勝には届きませんでしたが、てっぺんまで2.6点差まで詰め寄る魂の一本を最後に披露してくれたことは、見ている側に感動を与えてくれました。

ATOMICテントに戻ってきた青木選手は、涙で前が見えないくら目を真っ赤に腫らしてこうコメントを残してくれています。
「本当にスキーが凄く良いです。自衛隊らしく戦車になれました。初日からもうちょっと点数取れていたらてっぺんに届いたかなという悔しさもありますが、初めて優勝争いに絡んだので良い経験になりました。
最後は自分らしく滑れたし、自分らしく滑れば結果がついてくるっていうのが分かったので、来年はてっぺん目指します!」

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苦節16年、15回目の技術選で初の表彰台。青木選手、本当におめでとう!

 

#3 ベストリザルト更新祭り! TEAMの総合力で底上げに成功

トップランカー2名はもちろんのことですが、その次に続く選手たちも凄かった。

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トレーニング時から良い動きを見せ好調をキープしたまま大会を迎えることが出来た石水克友キャプテンが、表彰台まで0.4点差まで迫る4位入賞ベストリザルト更新。
須川尚樹選手が、大きなミスを犯す種目があったにも関わらず9位入賞ベストリザルト更新。
大場優希選手が、ベストリザルトタイの4位入賞と、合計5名もの優勝・入賞者を出すことが出来ました。

入賞された選手たちにスポットが当たるのは当然ですが、ATOMICとしてはTEAM全体としての底上げが出来たところに注目してほしいです。
手倉森楓果選手がスーパーファイナル進出まであと1人に迫る16位ベストリザルト更新。若手の片岡嵩弥選手がマテリアル変更1年目にして入賞まであと一歩の13位ベストリザルト更新。安達郁朗選手が自身初となるスーパーファイナル進出で28位ベストリザルト更新。
初日にミスをして35位発進となったベテランの水落亮太選手も、1種目1種目丁寧にこなし19位まで順位を上げています。

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ATOMIC TEAMは、たった数点の僅差でスーパーファイナル進出を逃した選手が沢山います。
また、初めて決勝進出を果たした選手も沢山います。
本当に多くの選手がベストリザルトを大幅に更新し、いよいよファイナル進出を狙える位置にみんなで這い上がってきました。ベストリザルトを更新しているにも関わらず、どの選手も悔しさを滲ませていたのが印象的です。ATOMIC TEAMはまだまだ強くなります。

 

#4 影の功労者等

こういったTEAM全体の躍進の影には、合宿時から一貫性を持って選手たちをまとめ、目まぐるしく変わる状況に対して的確なアドバイスを送り続けた若月新一ヘッドコーチをはじめ、歴史を作ってきた先輩コーチ陣たちのご尽力があってこその賜物だと思っています。

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若月コーチは、12月のTEAMトレーニングで基本的な用具にマッチした新しい練習テーマを掲げ、滑りの「質」を根本から改革することを推進してきました。若月コーチの一貫性ある指導のもと、松沢聖佳コーチ、阿部博隆コーチ、長嶋佐織コーチがより広く選手をサポートし、北海道エリアは村上祐介プレーイングコーチが選手一人一人に寄り添う形で細かなアドバイスを送り続けました。
また大会直前合宿では、新しいマテリアルのセッティングで細かな部分をきっちり調整(ビンディング位置のTESTなど)し、選手たちのパフォーマンスを最大限引き出すことに成功。選手たちも納得の完璧な準備で、自信を持ってスタートに立てたと思います。
冒頭でも書きましたが、選手一人ひとりの努力と、TEAMとしての準備、そしてマテリアルという武器、この全てが噛み合った総合力が今のATOMIC TEAMを支えています。
ATOMICカラーの様に一際明るい良い雰囲気を保ちつつ、皆さんから憧れていただけるようなブランド、TEAMとして成長できるよう、これからも前に進みます。

 

#5 ATOMIC DEMO TEAMの顔「松沢寿」選手生活にピリオド

このニュースの方が驚いたという人もいるのではないでしょうか。
私たちATOMICスタッフも、生涯現役を続けるのではないかいうくらいパワフルな存在だっただけに、非常に残念です。

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現役生活は驚きの28年。若手選手たちが生まれる前から全日本技術選に参加していた事を考えると、本当にその選手生活の長さに驚かされます。
今大会こそ結果が振るわなかったものの、この長い現役生活を常に上位で過ごした事を本当に誇りに思いますし、誰もが認める”スキーのうまさ”は、ここで現役を終えるには凄く寂しさを感じます。

歴代の全日本連覇記録を持つレジェンド松沢聖佳さんを奥さんに持ち、夫婦揃ってのその存在感は、ATOMICにとってだけでなく、スキー界にとっても欠かせない存在だと思っています。
寿さんをよく知る方も多いと思いますが、非常にメリハリのある熱い男で、若手を厳しく指導し、ATOMIC TEAMをここまで成長させてくれた第一人者です。雪上では厳しく、酒上では驚くほどフランクな寿さんだからこそ、多くの人に愛されて長い選手生活を送ってこれたのではないでしょうか。
用具の性能を誰よりも理解し、勉強し、その素材一つ一つに対して雪上で敏感にリアクションできる寿さんは、私たちがスキーを開発していく上でも欠かせない存在でした。

寿さん引退の話しは、実は今から2年前に遡ります。
2年前のルスツ大会で引退を決意していた寿さんですが、翌年の技術選開催が地元の白馬に決定すると引退を撤回。もう1年頑張ると努力を続けました。しかしながら、1年の努力を続けてきた後にやってきたのは、コロナウィルスによる大会中止の残念なお知らせ…
自分のタイミングではどうしようも出来ないジレンマが2年も続きました。歳を重ね、技術選で戦う体力を維持することは本当に並大抵の努力では成り立たないと思います。

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今回、残念ながら無観客大会ということもあり、多くのスキーヤーから見送られる寿さんの姿を見ることは出来ませんでしたが、ラストランに向かう寿さんのその表情は、強い日差しにも負けないくらい晴々としていました。スタートを待つ若いファイナリストたちから見送られていくその姿は、歴史を作ってきたという存在感と哀愁感、そして、一つの歴史に幕を閉じる感動的な空間でした。

松沢寿さん、本当に長い選手生活お疲れ様でした。
これからは、より若手の教育と育成、そしてスキー界発展のためにご尽力いただき、スキーヤー松沢寿としての第二ステージを楽しんでください。

 

#6 新たに9名ものナショナルデモンストレーターが誕生

全日本スキー技術選に続き、翌日に開催された第38回デモンストレーター選考会。
こちらにも多くの選手たちが挑戦する中で、全28名の認定のうち、9名という大勢のATOMIC選手がナショナルデモンストレーターに認定されました。

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【男子】
武田竜(北海道)、石水克友(岐阜県)、須川尚樹(北海道)、片岡嵩弥(北海道)、大場奨三(北海道)、丸山淳也(長野県)、安達郁朗(富山県)
【女子】
青木美和(新潟県)、大場優希(北海道)

また、各加盟団体案件も含め、多くのSAJデモンストレーターも誕生する予定です。
今後は自信と責任を持って日の丸を背負い、スキーヤーの育成やスキー界の発展に向けて活躍を祈ります。

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非常にトピックスの多い今年の全日本技術選となりました。
もう少しスポットを当ててあげたい若手選手の活躍や、若手に負けずリザルトを残しているベテラン選手、そして種目別でキラッと光る滑りを見せてくれた選手などまだまだ書ききれないトピックスはいっぱいありますが、そういった選手たちも、来年以降全員上位に食い込んで来る事を期待して、第58回全日本スキー技術選手権大会のレポートを閉めたいと思います。

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LIVE配信を通じて選手たちへ声援を送り続けてくれたスキーヤー、ファン、各スポンサーの皆様、そして、大会を無事に開催・運営して下さった全日本スキー連盟をはじめとする関係団体様、苗場スキー場の皆様へ、改めて心から感謝を申し上げます。
本当にありがとうございました。
来年は会場で応援してくださる沢山のスキーヤーにお会いできる事を祈念して。
WE ARE SKIING!!!

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