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「雪山は夢のような場所。それを伝えるのが僕の使命」プロスキーヤー・児玉毅さんインタビュー
Photo: Hiroshi Suganuma
ATOMICを代表するフリーライドスキーヤーの1人、児玉毅さん。20代の頃から海外を中心に活動し、2012年からは自身のプロジェクト「地球を滑る旅」を通して世界中の雪山を滑りながら、書籍やSNSなどでスキーの素晴らしさを発信する活動に力を入れています。
今回は、さまざまな取り組みでスキーシーンを盛り上げている児玉さんに、独占インタビューを敢行。世界中をスキーで旅する魅力や、コロナ禍を経験して変わったこと、スキーの楽しさを伝えるにあたっての思いなどをお話していただきました。
■児玉 毅(こだま たけし)
1974年生まれ、北海道札幌市出身
20代の頃から海外を中心に活動を続け2012年に「地球を滑る旅」というプロジェクトを始動「スキーを背負って世界を旅する」をライフワークにプロスキーヤーとして海外に出向き、そのようすを記録した書籍を年に1度のペースで出版している。
【世界中の雪山を旅するプロジェクト「地球を滑る旅」を続けて9年】
レポーターMayu:児玉さんが2012年から行なっている「地球を滑る旅」とは、どういったプロジェクトですか?
児玉:簡単に説明させてもらうと、僕が行きたいと思うところにスキーをしに行って、そのようすを記録し、映像や書籍を通して皆さんに発信するというプロジェクトです。もともと僕は、旅とスキーが大好きで。今後の人生で続けていきたいことを考えたときに、大好きな旅とスキーをかけ合わせて面白いことができたらな、と思ってこのプロジェクトをスタートさせました。毎年、記録した旅のようすは本として出版していて、スキーファンの皆さんに楽しんでいただくこともプロジェクトの目的のひとつなんです。
旅をしながら世界中の雪山を滑ってみたいという僕の気持ちが根底にあって、それを作品にすることでファンの皆さんとも繋がりたい、というのがこのプロジェクトの原動力になっています。今年で出版した書籍も8冊となり、たくさんの方に僕の活動を知っていただくきっかけにもなっているので、プロスキーヤーとしての活動をよりいっそう豊かにしてくれる大切なプロジェクトです。
各地の雪山に行くと、ひとつとして同じ環境のところはなくて。だからこそ、雪山では滑りに対するイメージだけを膨らませるのではなく、いかに自然と調和するかを考えて滑るようにしています。
レポーターMayu:プロジェクトを9年続けてみて、スキーファンの皆さんからの反響はいかがですか?
児玉:皆さん、毎年すごく楽しみにしてくれています。旅に出るときは、いつもどこに行くかを明かさずに出発するんです。それで現地からSNSなどで状況を発信しながら、今回はどこを旅しているのかを皆さんに考えてもらっています。
旅が終わって、映像を編集してから初めて「ここに行ってました」と明かす。そうやって皆さんとコミュニケーションを取りつつ、いかに楽しんでもらうかを考えながら活動していますね。
ただ映像や本を出すだけじゃなくて、そこにエンターテインメント性を持たせたいんです。「次はどこに行くんだろう」とか「自分だったらここに行ってみたい」とか、見てくれている方が自分を投影したり、まるで自分もそこにいるかのような感覚を味わったりできるように心がけています。
このプロジェクトも9年間でたくさんの方に認知していただくことができたので、冬が近づくと、僕だけでなくスキーファンの皆さんもソワソワしながら、本が出版されるのを楽しみに待ってくれているようです。
レポーターMayu:児玉さんのライフワークである「スキーを背負って世界を旅する」ことの魅力は?
児玉:スキーは、多かれ少なかれ移動をともなうスポーツです。いろいろなところに行きたいと思うと、必然的に旅とセットになります。そうすると、たとえば道中の景色や食べるもの、温泉や人との出会いなど、スキー以外にもいろいろな要素が付随する。それらの要素が、さらにスキーの魅力を引き立ててくれるんです。
だから、僕が大好きな「スキー」に「旅」の要素が加わることで、より忘れられない記憶になるんですよね。スキーと旅が、互いにいい影響を与えているようなイメージというか。極端にいうと、スキーだけをする、旅だけをするとなると、ちょっと物足りなくなってくる。つまりスキーと旅をセットにすることで、どちらも何倍も楽しくなるところに惹かれたんだと思います。
【「旅」を制限されたことで得られた気付き】
レポーターMayu:コロナ禍で旅に出る機会もかなり限られてしまったのではないかと思いますが、児玉さんの生活で変わったことはありましたか?
児玉:僕は北海道に住んでいて、山や海などの恵まれた自然が身近にあるおかげもあって、ストレスなく過ごせています。むしろこのような状況になったことで、地元の良さをあらためて感じましたね。
今までは新しいことをしようとすると遠くに行ってばかりで、地元に目を向ける機会があまりなかった。けれど、そんなに遠くに行かなくても、楽しいことはいくらでも見つけられるんだなっていうことを知りました。あとは、コロナ禍を経験したことで、本当に今やりたいことを最優先してやっていくことが大事なんだって気付きましたね。
レポーターMayu:実際、やりたいことのなかで行動に移されたことはあるんですか?
児玉:今まで冬は海外でのスキーが中心だったのと、本をリリースしていたこともあって、年間を通して結構忙しかったんです。季節の移り変わりを楽しみきれないうちに次のシーズンがやってくるような生活でしたが、行動が制限されて時間に余裕ができたことで、季節の移ろいや、身近にある自然とじっくり向き合えるようになりました。
具体的には、たくさんのアクティビティを本気で楽しみましたね。サップ、マウンテンバイク、トレイルランニングなど…今まで以上に自然の中で遊びながら体を鍛えるようになって、心身ともにすごく充実しています。
レポーターMayu:「地球を滑る旅」は、コロナ禍以降は実施されていないのですか?
児玉:いつも海外で行なっていたプロジェクトが2020年はキャンセルになってしまったので…「今できることをしよう」と、2021年は北海道を舞台に1冊の本をつくり、11月1日に発売しました。旭川を中心とした、パウダーベルトと呼ばれるエリアが舞台の本です。
今までは海外に行くことで日本の良さも知ってもらうことを重視していましたが、はじめて日本を舞台に本を出したところ、かなりの反響がありました。本を通して地元の自治体の方々ともつながって、地域を盛り上げるという部分で目的を共有することができたんです。
スキー場を運営する方々や現場の皆さんと話す機会にも恵まれて、彼らの思いにも触れることができたので、一緒に何かやりたいなと考えています。そういった取り組みも続けながら、できる限り多くの人たちに雪やスキーの魅力を届けたい。これは今に限らず、スキーヤーとして活動を始めてから一貫して考え続けているところです。
【プロスキーヤーとして、冬の魅力を届けるという使命】
レポーターMayu:雪やスキーの魅力を届ける。その対象としてスキーファンはもちろん、あまりスキーに馴染みのない方々も含まれていると思います。彼らにはどんなふうにスキーを楽しんでほしいと考えていますか?
児玉:スキーにはたくさんの楽しみ方があるので、1つのジャンルにとらわれず、いろいろなスキーにトライしてほしいと思います。子どもの頃って、スキーを履いて雪まみれになって林の中を滑るだけで楽しかったですよね。それがどんどんジャンルが絞られ、専門的な競技として取り組むようになると、当時の楽しさを忘れがちになってしまう。
でも結局、ある程度の年齢になるとまた大自然の中を滑りたいと考え出すんですよね。だからきっと、雪山自体に本来の魅力があるのかなと僕は思っています。雪山は、大自然を堪能しつつ安全に遊んで帰ってこれるという夢のような場所なので、それを享受しながら型にとらわれない遊びをしてほしいです。
深い雪や、初心者にもやさしいパークを滑ってみてもいいし、バックカントリーっぽく林の中を滑ることだってできる。とにかくいろいろなスキーにトライすることで、きっと素晴らしさを感じてもらえると思います。
レポーターMayu:とにかく雪に触れる機会をつくってもらいたいと。
児玉:そうですね。極端なことを言えばスキー場に行かなくても雪には触れられるので、まずは雪に親しむところから始めてもらえたらと思っています。
日本のように雪がこんなにたくさん降るところって、世界的にも本当に稀なんです。すごく貴重な環境が近くにあるので、ぜひその恵みを味わってもらいたいですね。
レポーターMayu:では、児玉さん自身はこれからのスキー人生を、どのように過ごしたいですか?
児玉:僕の活動でいえば、新しい旅先は常に考えています。まだまだ地球を滑る旅を続けたいし、行きたいところを考えていると、いくらでも出てくる。生きてるうちに全部行けるかな?ってくらいあるので、できる限りたくさんの国に滑りに行って、皆さんに楽しんでもらえるコンテンツづくりを継続して行ないたいですね。
あとは「雪育」という活動。これは僕の使命の1つです。日本はこれだけ雪に恵まれているのに、海外に比べると雪の季節をあまり楽しめていない。これってすごく残念なことだと思います。ヨーロッパは冬になるとお祭り騒ぎのような雰囲気になりますが、そのように少しでも冬を楽しむ、雪を楽しむってことを日本に住んでいる皆さんにも体験してほしくて。
そのためにも僕らは、冬の魅力をもっと伝え続けなければいけないと思っています。雪育は「雪を通じて生活を豊かにしよう」という考え方のもとで活動をしているので、そういう考え方をもっと広めていきたいですね。
レポーターMayu:では最後に、2021-22シーズンの抱負を教えてください。
児玉:僕はあまり「こういうシーズンにしよう」とは考えないようにしていますが、毎日なにか新しいことをしよう、とは決めています。今日も行ったことがなかった山に行って、たくさんの発見がありました。そんなふうに、毎日みずみずしい気持ちでスキーに接したいんです。
朝起きたときに、ワクワクするような1日を過ごしたい。それを毎日続けていたら、あとから充実感がついてくると思うので、そういう気持ちを持ち続けてシーズンを過ごせたらいいなと思っています。
■児玉毅 Official Web Site:https://www.snow-freaks.com/takeshikodama/